Sa・Ga2 秘宝伝説 第一章 〜秘宝を求めて〜
「後は、ここしかないようだな・・・」
「そうね。構造から見ても、この奥が心臓部・・司令室なのは間違いないわ」
「よし、行くぜ」
ここまで来てしまったのなら、と勢いよく扉を蹴り開けるアイリ。
そこには、この基地の司令・・がいるはずだったのだが、そこには巨大な爬虫類が鎮座していた。
そう、全長3mはあろうかという巨大な体躯。
「コイツ・・・恐竜か?! なんで、こんなモンがここにいるんだよ!」
『それ』はゆっくりと首をもたげると、はっきりとした肉声でこう言った。
「侵入者か。しかも秘宝を持っている小娘どもとは。カイも一緒とは都合がいい・・ここで死ね!」
「コイツも喋れるか。ラムフォリンクスと同じだな。どうやら、奴もアシュラの手下だったようだ」
冷静に渚が分析すると、腰の刀を抜き放った!
アイリもレイピアを抜くと、いつものように、正面から突きかかっていく!
だが、その攻撃は、固い皮膚と筋肉に阻まれ、皮膚をこするだけに終わってしまう。
「マジかよ?!なんだこの固さは!」
恐竜が尻尾を振るうと、それはムチのように二人を襲うが、その攻撃はかわすことができた。
「くっ・・・これではラチがあかん! どうする?」
「カイが魔法を唱えてる!時間を稼いで!」
聞き覚えのある声がした。
それは、やはり深雪の声だったが、こんな時でしか喋らないのかとアイリは心の中で毒づく。
「よし! 渚、目を狙おう!」
アイリは、はっきりと渚にそう告げると、いつものように二手に分かれた。
恐竜にはすべて筒抜けになっているはずだが、時間を稼ぐだけなので牽制には丁度いい。
「データ照合が終わったわ! そいつはライノサウルス!主な武器は牙、尻尾、体当たりよ」
「そんなモンは見れば判る!」
このやり取りも、すべて敵の注意を引き付けることにある。
手持ちの武器が有効でない以上、カイの魔法に頼るのが最上の策なのだ。
そうこうしているうちに、渚が一歩踏み込んで刀をライノサウルスに叩き付けた!
その一撃は確かに恐竜の脳天に直撃したのだが、固い皮膚と頭蓋に阻まれ僅かに手傷を負わせるに止まってしまう。
「ガアァァ!!」
その凄まじい咆哮とともに、ライノサウルスの反撃が始まった!
一歩前に出ていた渚を体当たりで吹き飛ばし、尻尾を振るってアイリを牽制する。
素早く身を引いたため、渚に大きなダメージはなかったものの、背中をしたたかに壁に打ち付け、一瞬、息が止まる。
知能を持ったライノサウルスは、尻尾の攻撃で間合いを開けたアイリを無視し、
壁にもたれて咳き込んでいる渚に突撃しようとする!
「オレは無視かよ! いい度胸してんじゃねーか!」
突進するために、一瞬だけ『ため』の動作に移った隙を、アイリは見逃さなかった。
地を蹴ったその勢いのままレイピアを突き出し、その一撃が、狙い違わず恐竜の左目を抉る!
次の瞬間、ライノサウルスの悲鳴も止まぬうちにマツノが飛び出し、
手にしたバトルアクスを、横殴りに後ろ脚目掛けて叩き付けた!
二度目の悲鳴が上がる。
それと同時に、ライノサウルスが滅茶苦茶に暴れだし、尻尾に叩かれたアイリはレイピアを取り落としてしまった。
マツノもバトルアクスを放して間合いを取る。しかし、それでもライノサウルスは当初の目的を諦めなかった。
まだ壁にもたれている渚に向かって、バトルアクスを脚に食い込ませたまま突進していく!
その時には冷静に返っていた渚は転がってそれを避けるが、刀はその手から離れてしまった。
「くそっ!バケモノかコイツは?!」
「相手は恐竜だ。滅多な攻撃では倒れんだろう・・・
しかし、刀を手放すとはなんたる不覚・・・」
丸腰ではどうしようもなく、渚は刀を拾う機会を覗うしかない。
アイリはレイピアを拾いに行くのを諦め、代わりのロングソードを抜いた。
レイピアほど鋭利な切先を持たないそれは、彼女にとっては、ひどく頼りなく見える。が、その時、
「サンダー!」
と高らかに宣言する声が響き、カイの手から伸びた電撃が、ライノサウルスを直撃する!
「ギャアアアァァァ・・・・・!!」
一際長い悲鳴を上げると、ライノサウルスはそれを断末魔にして崩れ落ちた・・・
「ふう、終わったか」
ライノサウルスはところどころ黒く焦げ付いている。
相変わらず、魔法という力の恐ろしさを見せ付けられるようだった。
どんなに斬りつけても動きすら鈍らなかった怪物が、一撃でアッサリ倒れてしまうのだから。
「ガアァッ!」
・・・だが、一同がホッとして武器を拾いに行こうとしたところで、ライノサウルスは咆哮とともに起き上がったのだ!
「チッ! あん時と同じかよ!」
だが、彼女たちも、かつての経験から、油断してはいなかった。
しかし、ライノサウルスは一行は無視し、壁に向かって頭突きをぶちかましていった!
「なんだ・・・苦しくて暴れているのか?」
渚はそう呟いたが、予想に反して、恐竜はこちらへ向き直った。
その背後では、壁の一部が壊れ、中から赤いボタンが顔を出していた・・・
次の瞬間、基地が大きく揺れたのだ!
「ハッハッハ・・・残念だったな、ほとんどの秘宝は、すでにアシュラ様に送った後よ・・・
貴様らもここで基地とともに木端微塵だ!アシュラ様バンザーーーイ!!」
ライノサウルスは、すでに気が触れていた。
咆哮とも高笑いともつかぬ声を上げ続けながら、首と尻尾を振り回して暴れている・・・
「マズイぜ!早く脱出しないと!」
「ダメよ、扉が開かない! それに、今から戻っても間に合わないわ!」
「しまった・・やられた・・・」
アイリは恨みのこもった目でライノサウルスを睨み付ける。
だが、狂っているライノサウルスはまったく意に介さず、滅茶苦茶に暴れ続けている・・・
「ん?・・・あれは何だ?」
アイリがライノサウルスを睨んでいると、その後ろの壁がずれているのに気付いた。
どうも、その向こうにも空間が広がっているように見える・・・
恐竜は、狂いながらも一行の脱出口を塞いでいるに違いなかった。
「あの向こうだ・・・奴をどかすしかない!」
その言葉で、皆が壁のずれに気付いた。
「ブッ倒して、奴の屍を踏み越えるしかねぇ! 行くぜ!」
拾ったレイピアを抜くのももどかしく、手にしたロングソードを構えて突撃するアイリ!
滅茶苦茶に振り回すだけの尻尾をかいくぐり、ロングソードは深々と恐竜の体に突き刺さった!
だが、その生命力は凄まじく、半ばまで剣が食い込んでも倒れない。
マツノがバトルアクスを引き抜いて今一度叩きつけるが、それでも崩れ落ちることはなかった。
「やたらめったらに攻撃するな! こんな時こそ、急所に一撃を叩きこむんだ」
刀を拾った渚が、喉元へ狙いすました一撃を放つが、それでも倒れない。
「くっそー、何かないのか・・・」
レイピアでは効果が薄い。他に何か・・・そう言えば、すっかり忘れていたが、背中の荷物にバトルハンマーがあった。
「イチかバチか・・・こいつでやってみるしか!」
アイリがバトルハンマーを構えたのを見て、マツノは咄嗟にその意図を悟った。
「それなら、これでどうっ?!」
威力だけで言うならば、凄まじいものがあるだろうバトルアクスを、力任せに脳天へ叩き付ける!
それは確かに頭頂部に食い込んだが、それでもライノサウルスは動きを止めなかった。
それでも、確実に弱っているのは確かで、暴れるその動きは緩慢になってきている。
だが、アイリは、バトルハンマーを構えたはいいが、使ったことのない武器だけに攻めあぐねていた。
緩慢になっているとはいえ、振り回される尻尾は、人間の内臓を破裂させるには十分と思える。
「くっそー、これじゃ飛びこめない・・・」
一撃必殺の攻撃を打ち込むには、十分に力を溜める必要があった。時間との戦いもあり焦りはますます募るばかり・・・
その時、マツノがライトセーバーとは反対側の腰に手を伸ばす。
そこには、いつの間に拾ったのか、あの遺跡にあったムチが差されていた。
「これで・・・」
マツノは、そのムチを、ライノサウルスの右後ろの脚に巻き付けようとする!
初めてにしては上手く脚に巻きつき、それを渾身の力を込めて引っ張る・・・!
普通ならば、いくら‘メカ’であるマツノといえども、恐竜との力比べに勝てるはずがなかった。
だが、これまでの攻撃で弱っていたこと、何より、彼女自身が付けた左後ろ脚の大きな傷・・・
その傷ついた脚は、とても踏ん張れるような状態ではなかったのだ。
ライノサウルスは大きく横倒しになり、起き上がろうとしても、左脚は傷つき、
右脚をマツノに引っ張られている状態では、情けない格好で前のめりに潰れるしかない。
結果的に、まるでアイリに頭を差し出すような形で倒れ伏すことになっていた・・・
「くらえーーっ!」
動きを封じられたライノサウルスの脳天に、大きく振りかぶったバトルハンマーが振り下ろされる!
その一撃は、バトルアクスの一撃で傷付いていた頭蓋を砕き、叩き潰していた。
ぐしゃりという嫌な感覚が、アイリの両手に伝わってくる・・・
アイリは、その感覚のおぞましさに、「ひっ」と悲鳴をあげてバトルハンマーを手放してしまう。
ライノサウルスを見れば、頭から中身をはみ出させてぴくぴくと痙攣し、やがて動かなくなった。
かすかな声さえあげることなく、今度こそ、ライノサウルスは
倒れた・・・
そのおぞましい光景と感触に、アイリは青ざめて身震いする。そして、もう二度とこの武器は使うまい、と心に誓った・・・
「とにかく、道は開けた。すぐに脱出するぞ!」
渚の声で、アイリは我に返った。渚は、あえてアイリの傍に来て、大声でそう言ったようだ。
もと犬猿の仲だった頼もしい仲間の心遣いに感謝しつつ、アイリは、ずれた壁をいつも通りに蹴飛ばして大きく開けた。
目と鼻の先に、ドアが見える。マツノによれば、裏口に違いなさそうだった。
この時ばかりは、渚を先頭に据えアイリは殿にまわる。だが、裏口に到着した彼女たちの目に、奇妙なオブジェが映った。
秘宝‘マギ’に違いない。
『ほとんどの・・・』という言葉が示したとおり、まだ一部はここに保管されていたようだ。
それを全員で素早く回収してから、ドアに飛び込む!ドアの横にあった小さなモニターが、カウントダウンを映していた。
殿のアイリが、チラッと内容を確認する。彼女には、モニターが何なのかは解っていなかったが、
そこに表示され、減り続けている数字の意味くらいはなんとなく理解できた。
その目に飛び込み、すぐに視界から消えた数字は『007』を表示していた・・・