Sa・Ga2 秘宝伝説 第一章 〜秘宝を求めて〜



大急ぎで天の柱へ向かって走っていると、背後から爆発音が聴こえた。
続いて、凄まじい爆炎と爆風が、最後尾を走るアイリを襲う!
結局、アイリは衝撃に煽られて転倒し、したたかに身体を打ちつけたものの、わずかに煤を身体に纏っただけで済んだ。
「ふー、終わったぁ。秘宝も取り返したし、上手くいってよかったぜ」
 背中に付いた煤を払いながら、アイリがそう切り出した。
「そうね・・・これで一安心。しかし・・アシュラがこれで諦めるとは思えません。
 この世界で手に入れた秘宝の力を使い、さらに強力になって、襲ってくるでしょう・・・」
 アイリが、ニヤリと笑って応える。
「その前に、オレたちの方から出向いてやるよ。
 アシュラを恐れて逃げ回るなんてのは、まっぴらゴメンだ」
 その言葉に、渚とマツノが揃って顔をしかめた。アイリの考えそうなことだ、と言わんばかりにかぶりを振って見せる。
「・・・危険過ぎます!」
 カイは、普段の神官の表情ではなく、‘カイ’その人の表情でそう言った。
「でも、やらなけりゃ・・・この世界をメチャクチャにされてしまう。
 それに、オレたちは秘宝を持ってる。アシュラに差し出しちまえばいいのかもしれないが、
 そういうことは出来ない性質でね。やるしかないんだ。逃げ回っていたら終わりはない」
「アイリ・・・」
 アイリがこうと決めたことを覆させるのは、恐らく、アシュラを倒すより難しいに違いない。
仲間たちは、これまでの、短くもお互いに密接した旅の間に、それを悟っていた。
「困った正義漢だよ。仲間使いが荒すぎる」
 肩をすくめ、冗談めかして渚が言った。
おそらく、冗談ではなく、本気で言っているのだろうが、彼女自身はそれを嫌がってはいないように見える。
「そういうアイリについていこうとしたのだから・・・宿命でしょうね」
 マツノは、自分の意思でアイリについて来ているわけではない。
それは、渚に宛てた言葉なのだろう。それを聞いて当人は苦笑いしている。
深雪は、相変わらず何も言わないし、渚の傍から離れようとしない。
それを見ていると、『困った仲間はお前らじゃねーか』と言いたくなってくる。
「決意は、変わらないのですね・・・では、せめてこれを」
 そう言うと、カイは一冊の本を深雪に差し出した。深雪が何気なく受け取り、それをパラパラとめくると、
慌てたように首を横に振り、受け取れないというふうにカイに押し付けた。
「いいえ・・『サンダーの書』、深雪、あなたはそれを解読することができるはず。
 この先、魔法は必ず必要になるでしょう。皆を後方で支える人になってください」
 カイは、姉のように優しい表情で、それをもう一度 深雪に差し出す。
深雪は、不安そうな表情をしながらもこそ、それを受け取った。
「んじゃ、早速、出発するとしますかね」
「そう・・・では、さよならですね。私は、ここに残らなくては」
「ああ。しばらくしたら、アシュラの手下どもは現れなくなるはずだ。
 期待して待っててくれよ」
「・・・本当に、アシュラと戦うつもりなのですね・・・いえ、アイリたちならできるかもしれない。
 アシュラは、この世界の隣、砂漠の世界を支配しています。どうか、気を付けて・・・無事に戻ってきて」
 カイは、天の柱の入り口まで見送ってくれる。
最後に、カイとガッチリと握手をすると、一行は振り返ることなく天の柱へと入っていった。
内部にある、色違いの床を踏んだ途端に、身体が浮き上がる感じがして・・・本当に、浮いていた。
驚いていると、マツノがエレベーターというものだから大丈夫、と保証してくれた。
外に出てみると、そこは真っ黒な空間に明かりが煌いていて、これが星なんだと思う。
星を足元に見た人間は、自分たちの世界には、まったくいないに違いない。
上から見下ろす天の柱は、まるで巨大な木の幹のように見えた。
もしそうだとすれば、世界は巨大な一本の木の枝に生い茂った葉の塊であるか、花開いた蕾であるのだろう。
そんな感慨を抱きながら、木のうろのような、別の世界への入り口へと身を躍らせる。
降りのエレベーターに身を委ねながら、アイリは仲間たちの顔を順番に見ていった。

渚とは、村に居た頃にはなかった信頼関係が生まれた気がする。
だが、その理詰めで断定的でお堅い、優等生な部分は相変わらずカンにさわる。

マツノは、事務的な性格から一変して、お姉さんぶった余裕のある性格に変貌した。
自分そっくりなこともあり、表情など出来が良すぎて嫌になることもある。

深雪は、相変わらずほとんど口も開かないし、避けられている節さえある。
ただ、カイから手渡された魔法書が、彼女をどう変えていくかというのは、楽しみでもある。

考えれば考えるほど頭痛がしてくるような、一癖も二癖もある個性的な連中だが、
少なくとも、苦しくも楽しい旅になることは間違いなさそうだった。
そして、彼女たちが、とても頼り甲斐のある、信頼のおける仲間たちであることも・・・

・・・Next world is ‘砂漠の世界’


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