Sa・Ga2 秘宝伝説 第一章 〜秘宝を求めて〜


「・・・待ちなさい!」
 その声に四人が振り返ると、先生が追い駆けてくるのが目に入った。
「やはり 私も一緒に行こう!」
 突然の申し出に驚いたが、アイリは純粋にそれを喜んだ。
そして 五人になった一行は、一路北へ向かう。
半刻ほども歩くと、すぐに、洞窟がぽっかりと口を開けている。
「んっ?何かいるぜ」
 が、入り口に差し掛かったころ、周囲の草むらがガサガサと揺れ始めた!
唸りを上げて飛び出す肉食獣・・・ジャガーの群れだった。
この辺りではよく見かける動物で、幼い子供のいる親が 非常に恐れている存在である。
「フム、モンスターとの戦闘に入る前の いい練習になるな。
 右側の群れは私が引き受けるから、お前たちは左側と戦いなさい」
「わかりました!」
 とはいえ、左側にいたのは4匹。アイリ、渚、マツノで相手をしても一匹余ってしまう。
「心配はいらん、私が2匹引き受けてやる」
 渚はそう言ったが、そんなことを任せていいものかと不安になる。
「ヤツらは素早いぞ、迷っている暇はない。 行け!」
 渚の号令で、アイリと渚が二手に分かれる。
ジャガーの気を逸らすためだったが、中央を大きく空けてしまう二人に、先生は思わず苦笑してしまった。

アイリは素早くレイピアを抜き、横に軽く切り払う。
あくまでフェイントのための一撃だったが、ジャガーは予想以上に大きな反応を示し、浅く頭を切り裂いてしまった。
斬ることを前提にしていないだけに、思わぬ命中で若干バランスを崩したところへ ジャガーが跳躍した!
「ちっ! なんだって、こんなのに苦戦してんだよオレは?!」
 相手に言葉が通じないのをいいことに、大声で自分の状況を叫んでしまうアイリ。
ジャガーの振るった爪は 身に着けていた青銅製の胸当てに当たって逸れたが、
完全に間合いを詰められてしまい、仕切り直しを余儀なくされた。

「フン!たかが動物如き・・・」
 渚は腰の二刀を同時に抜くと、抜きざまに左手の刀を横に払い、右手の刀を振り下ろした!
間合いは理想的、かわしようのない一撃を脳天に受けたジャガーの頭は、眉間で大きく二つに割れていた。
続けて、近くのジャガーに対して 足元の石を蹴飛ばしてぶつける。
石を受けたジャガーは、苛立ちの唸りとともに 飛来物の方角を向く。そこには、殺気を剥き出しにした渚がいた。
殺気に吸い寄せられるように渚に飛びかかっていくジャガーに、それを待ち構えていた冷たい刃が振り下ろされた・・・

二人が分かれたために出来た穴・・・
一匹のジャガーが冷静な判断を下し、そこにいる武器も持たない二匹の獲物に駆け出していった。
しかし、正しい読みをしたはずのジャガーは、破裂音とともに真っ直ぐ飛来してきた鉛の塊によって眉間を撃ち抜かれ、
飛びかかる体勢を整えたまま 地面を派手に転がっていた。
マツノが片手で構えているのは‘デリンジャー’本来なら、殺傷力の低い小銃のはずだった。
しかし、まさに『機械の如き』正確さで急所を撃ち抜かれれば話は別だ。
「さて、戦況はどうなっているでしょう?」
 マツノは、ざっと周囲を見渡した・・・


「先生!終わったぜ」
「すぐに加勢を・・・」
 しかし、それを言い終わらぬうちに、高らかに声が響いた。
「ファイア!」
 先生の放った火炎の魔法‘ファイア’は、周囲の草を道連れに、数匹のジャガーを焼き尽くしていた!
「うわっ、ひでぇ・・・ 先生って、こんなに凄かったのか」
 改めて、教師の威厳を見せ付けられた気分だった。
「ウム、お前たちの戦いは見せてもらったよ。
 二人で大きく動いて 敵の目を引き付ける、という発想は良かったが・・・中央をガラ空きにするのはどうかな」
「うっ! さすが先生、チェック厳しいぜ・・・」
「戦術が まだ甘かったか・・・」
 二人は、それぞれ反省するハメになった・・・
マツノを除く三人は、まるで、まだ課外授業を受けているような気分になる。
「ちょっと休んでいきますか?」
「いや、そんな暇はない。疲れてる奴もいないし、さっさと行こうぜ」
 アイリがざっと皆の顔を見回すが、反対の者は一人もいないようだ。
中の様子は、洞窟というよりも地下道のようで、歩き回るのに不便はなかった。
それでも、奥に進むにつれ、光源から遠ざかっていくためか 徐々に視界が利かなくなってくる。
湿気も多くなりはじめ、いよいよ洞窟探険をしているという気分が高まってきた。
「待ってください。行き止まりです」
 やや高くなった道をそのまま進んでいくと、
確かに、とても装備なしでは降りられそうにない段差が目の前に現れていた。
「あちゃー。登っていけば間違いないと思ってたんだけどなー」
「その 根拠のない自信はどこから来るんだ?」
「あー、そう言うならアンタが決めてくれ」
「行程を決めるのは、リーダーの役目だろう」
 アイリと渚は、終始、こういった小さな言い争いが絶えない。
初めはハラハラした様子で見守っていた深雪も、今ではすっかり無視を決め込み、周囲の警戒に意識を集中している。
「アイリ、足元に何か落ちています」
 どういう構造なのか、暗闇の中でも目が利くマツノは、いきなり重宝していた。
「んー? 何だコレ・・盾か。それから・・・ポーションだ!」
 拾い上げてみると、青銅でできた小さな盾だった。ポーションの瓶は、まだ中身が残っているようだ。
どうも、最近になって捨てられたものではなさそうで、盾はところどころ錆び付いている。
「アイリ、君が装備して使ってはどうかな?」
 先生が、そう進言してきた。
「んー、盾ですか。使えないことはないですけど」
「使っておけ。お前が盾で前衛を固めておけば、私は攻撃に専念すればいいことになる」
「なるほど、戦術ですね」
「そうだな、そういうのもアリか。でも、コレあんまり保ちそうにねーぞ」
「強度と損傷具合からして、さきほどのジャガー程度の攻撃であれば 5〜6回は防いでくれそうです」
 あまりアテにはできないな、と判断したアイリは、ここ一番で一撃だけ防ぐようにしようと決めた。
「段差の下に何かいます! ゴブリンが3体、骸骨が2体ですね。この辺りでは珍しくないモンスターです」
 『モンスター』という単語に、一行の表情に緊張が走る。
「避けるルートはないか?」
「ここを降りて 素直に道沿いに進んだ場合、接触は避けられません」
「降りて戦いなさい。お前たちには、まだまだ実戦経験が必要だ」
 避けることはできそうになく、先生にまでこう言われては従わないわけにはいかなかった。
「さーて いきますかっ!」
「もっと、静かに進みましょう。奇襲で数を減らしておくべきです」
「不意打ちだろう・・・誉められた行為ではないな」
「ですが、戦闘を優位に進められます」
「だーっと近付いて、オレと渚で一体ずつブッ倒せばいいさ」
 なんともアイリらしい決断だった。
アイリが渚のほうをチラリと見ても、
彼女は普段通りの『もう やるべきことは決まった』といった迷いの無い表情に戻り、何も言う気配はない。
いつもなら呆れたように反論してくるはずの渚が何も言わないことが、却ってアイリの不安を掻きたてる。
そんな彼女の不安をよそに、モンスターとの距離は徐々に縮まっていく・・・
モンスターたちは方向を変えたらしく、こちらに背を向けているため、一行の接近に気付いた様子はない。
「背後からの奇襲・・理想的ですね」
「いい気分はせんな」
「よし、もういいだろう。渚、突っ込むぜ! おりゃあ!」
 奇襲だというのにときの声を上げて突進するアイリに、マツノは非常に人間らしい仕草でかぶりを振った。
が、この時ばかりは効を奏し、突然の出来事にモンスターたちは慌てふためいていた。
所詮は、臆病なゴブリンと 愚鈍な骸骨だということか。
彼らにとって、その一瞬の隙が命取りだったと言うしかないだろう。
次の瞬間、アイリのレイピアがゴブリンの急所に突き刺さり、渚の刀が骸骨の細い首を刎ね飛ばしていた!
「うしっ! 奇襲成功!」
「大馬鹿者! あれは強襲と言うんだ!」
 二人はそんな会話を交わしながらも、敵から目を離すことはなかった。
彼女たちは少女ではあるが、同時に訓練された戦士でもあるのだ。
数で負けている場合、気合で負ければ敵は雪崩れのように押し寄せてくる・・・
だが、仲間を一瞬で二人も倒した敵の一睨みは、モンスターたちをさらに震え上がらせた。
「よし、下がるぞ」
 小声で渚が声をかける。
「なんでだよ?このまま押しきっちまおうぜ」
「仲間との連携を取らねばならん。 それに、その間に道を空けてくれるかもしれん」
「なるほど。 了解だ」
 緊迫した状況の中、モンスターは一歩も動くことなく 二人が後退するのを凝視していた。
すぐに仲間たちが追い着き、その間にモンスターは落ち付きを取り戻したのか、こちらに向き直っている。
「ちぇっ。 結構、冷静だな」
「恐怖が臨界点を超えたために、現実感が麻痺したのでしょう」
 ・・・その後の決着は、あっけないものだった。
アイリ、渚、マツノがそれぞれ得意の一撃を放ち、それでモンスターは全滅してしまった・・・


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