Sa・Ga2 秘宝伝説 序章 〜伝説は始まる〜


秘宝・・・

世界を創った古き神々が遺していった 遺産

それは 素晴らしい力の シンボル

秘宝を巡って 多くの者が争い

ある者は 秘法を手にし

またある者は 敗れ去り 消えていった

そしてまた 新たなる戦いの物語が 始まろうとしていた・・・


「・・・アイリ・・・アイリ!」

「・・・ん んー・・・おとうさんか・・・ナニ?」

「おとうさんは 旅に出ねばならん。それでだ、これを預かって・・・ おい アイリ!寝るな!」

「なんなの・・・ねむいよ」

「よく聞け!これは 誰にも渡してはいかんぞ いいな!」

父から手渡されたものは、美しく飾り立てられた 小さな鏡だった・・・

「またどっか行っちゃうの?」

「ああ かあさんを頼んだぞ」

「ウン・・・はやくかえってきて」

「わかった 元気でいろよ」

そして、記憶の中の父は、窓から飛び出していった・・・

「なんでおとうさんって いつもまどからでていくんだろう? コレ なんだろう・・・キレイだな・・・」

そのまま、少女は眠ってしまった・・・
『誰にも渡してはいかんぞ』という父の言い付けを忠実に守ろうとしているのか、優しく鏡を抱きかかえたままで・・・


時は流れ 少女も成長した・・・

「母さん オレ・・・」
 ささやかな朝の食卓。いつも通り振舞う、たった二人の家族。
そんな雰囲気には およそ相応しくない口調でそう語り掛けたアイリも、それだけ言ったきり沈黙し、
言い出しにくそうに母の顔を覗っている。
「なあに? 言いたいことは、ハッキリ言いなさい」
 優しく語りかけるその言葉は、子の安否を気遣う親のそれだ。
すでに、『言いたいことは解っている』とも言いたげなその様子に、アイリは気付くことができなかった。
「・・・父さんを、探しに行きたいんだ」
 そう言って、まるで叱られている子供のような表情で母の顔色を覗う。
当然、反対されるだろうと思っていた。あてもないような旅に出たい、という子供を止めない親がいるわけがない。
「・・・そう・・いつかは、この日が来ると思っていましたよ。お前も 男勝りで冒険好きだからね」
「でも・・・母さんのことも心配なんだ。ひとりっきりで大丈夫かい?」
「お前に心配されるほど 老いぼれてはいませんよ…行ってきなさい」
 そう言いながら、母は何かに堪えているように見える。
母が、無理をしているのではと思えてならない。
「ウン・・・」
 それでも、決意を曲げるわけにはいかなかった。
一度口にしたことを曲げるのは、二人が最も嫌っていることだから。
「『かあさんは 元気にしている』って、おとうさんに伝えてちょうだい」
「ウン・・・」
「さあ 早く行きなさい!」
「・・・母さん オレ・・・」
「それから、先生にも ちゃんとご挨拶していくのよ」
 アイリ以上に決然とした表情で旅立ちを促す母に対して、これ以上、どんな言葉をかければいいのか。
必死で考えても解らなかった彼女は、結局、何も言わずに立ち上がった。
「母さん・・・きっと、父さんと一緒に帰ってくるからね」
それだけを言い残し、まとめてあった荷物を手に、父と同じように窓から飛び出していく娘を、母はそっと見つめていた・・・


「そうか 行くのか・・・」
「はい。先生、お世話になりました」
「そうだな、本当に手がかかったよ。冒険と言っては危険な場所へ行く、物は壊す、ケンカはする・・・」
 先生は、遠い目をしてそう語った。懐かしい思い出だ。
「おっと、思い出に浸っている場合ではなかったね」
 そう言って咳払いをすると、再び真剣な表情に戻った。
「では、私の知っていることを話しておこう・・・ 世界は、古き神々が お創りになられた」
「ええ 教科書の122ページにあります」
「こら、茶化すんじゃない・・・ ともかく、その遺産は、数多くの秘宝としてこの世界に散らばっている」
「・・・・・」
 なぜ 先生がそんな話を始めたのか、その意図が掴めない。
それと父に、何の関係があるのだろう?
「お前が 幼いころに父上から預かったものはそのひとつなのだ。77個集めると 女神の像になるらしい」
「これが・・・」
 唯一の手がかりである鏡を見つめる。
確かに、美しい意匠が凝らされた鏡だとは思っていたが、まさか そんなものだとは思ってもいなかった。
「秘宝は それぞれパワーを持っている。
 その力を使って、自ら‘新しい神’と名乗る者すらいる」
「なぜ そんなものを父が」
「父上は、女神の像を集めておられたのだ。秘宝を悪用しようとする者の手に渡さないために」
「・・・父は 正義の味方だったんですね・・・」
 そう考えると、記憶の父も光り輝いて見えるのだから、不思議なものだと思う。
「・・・まあ そんなところだ。父上を探すのならば、秘宝を頼りにするといいだろう」
「ハイ!」
 これまで、あてもなく旅をしなければならず、正直、雲を掴むような話だと思っていただけに
大きな手がかりとなりそうな事柄が見つかって、これからの旅に光明が差してきた気がした。
「お前の持っている 秘宝‘精霊の鏡’は、近くに秘宝が存在するかどうかを映し出してくれる力があるらしい。
 それを 上手く使え」
「ありがとうございます。秘宝のことも、いろいろ調べてみます」
 父のことももちろんだが、秘宝を探すという旅そのものにも、大きく興味が沸き始めていた。
冒険家である父の血が そうさせるのかもしれない。
先ほどまでの、まるで死地に赴くかのような表情が消え、生来の明るさと希望に満ちた瞳が戻ってきていた。


その時、待ちかねたかのように扉が開き、
この学校で、一緒にいろいろなことを学んできた友人たちがなだれ込んできた。
「お お前たち」
「先生、黙ってるなんてひどいよ」
「アイリ 行っちゃうのか?おれも連れてってくれよ」
「私も アイリ!」
 アイリは、途方に暮れた表情で、友人たちと先生とを交互に覗っていた。
先生は、仕方がないといったふうに溜め息をついたが、その顔はどこか満足げだ。
教え子たちの友情に 感じ入っているのだろう。
「先生、どうしましょう・・・?」
「ウム 信頼できる仲間がいるのは良いことだ。何人か選んで連れて行くといい」
 そう言うと、我も我もと名乗りを挙げる友人たちを見て、
アイリは、旅の間に付き纏う危険と、彼らの友情とを押し測っていた。
生半可な覚悟では、連れて行けないのだ。
「待て。私が行こう」
 その中でも、よく通るハスキーボイスなどというものは 非常に目立つ。
「な、渚・・・」
 正直、この申し出には参ってしまった。何せ、アイリと彼女は犬猿の仲。
いわゆる、ハメを外す問題児とお堅い優等生。お互いに反目していると言っても過言ではない。
「大人数で行ける旅ではない。お気楽なものでもない。適任だと思うが?」
 渚は、片刃の剣を両手に持って戦う‘二刀流’という剣術を使える。
そんなこともあって、まったくもって彼女の言う通りなのだが、こういう理詰めなところがカンにさわるのだ。
「あとは・・・そうだな、深雪がいいだろう。一緒に来てくれ」
 なぜか、話が進んでいる。
アイリ自身は、渚を連れて行くともなんとも言った覚えはなかったのだが・・・
「でも、深雪は・・・神官になるための修行があるし・・・」
「だからこそ、お前には必要なんじゃないのか?それに、別の能力もあるんだろう?」
 そう、彼女はESPという能力があるが、魔法とも異なる力故に、幼い頃に苦い記憶がある。
それを頼りにするのは少々酷ではないのか。
「それは・・・その力は・・・」
 深雪は、どうにも歯切れの悪い答えを返してきた。
やはり、ESPを駆使するというのは、彼女にとって辛い思いをさせることになる。
アイリが他の人に頼もうと 皆を見回していると、何やら勝手に話が進んでいた。
「深雪、友人の私だから言うんだ。お前がESPをいつまでも制御できないのは、辛い記憶に縛られているせいだ。
 アイリと一緒に旅に出れば、その力はきっと彼女を救うだろう。そうすれば自信が付く。
 自信が付けば、嫌な思い出も過去のものになり、力が制御できるようになる。
 制御できる力なら、恐れる必要もなくなる。この旅は、きっと、お前の運命を変えるだろう」
「・・・はい、わかりました・・・」
 と、気が付けば、深雪も同行することになっていた。
アイリの目から見れば、この二人の関係は理解できないものがある。
どう見ても、いつもいつも深雪が渚に押し切られる、いや押さえこまれるといったように見えるのに、
深雪は、渚を深く信頼しているようなのだ。
冷静に考えれば、深雪のような やや気弱で優柔不断なところがある人間にとっては、
常に理詰めで断定的な渚は、頼りになる人だと思えるのだろうが。
「さて、連れて行くのは、そのくらいでいいのかな?」
 その声で ハッと我に返った時、まだ友人たちは期待の目でアイリを見ていた。
他には・・・とアイリが考えていると、
「こんなところだろう。これ以上増えると、動きにくくなるかもしれないしな」
 またもや、渚が勝手に決めてしまっていた。
「おい、いいかげんにしろよ。勝手に話を進めるな!」
「まったく、相変わらずの口の悪さだな。もう少し自分の性別を考えたらどうだ。
 それとも、この決定に文句でもあるのか?」
「・・・余計なお世話だ。お前だって、十分男言葉だよ」
 決定については、文句は言えない。確かに、これくらいでちょうどいい人数だとアイリも判断した。
「なあ、おれも・・・」
「駄目だ。若者全員が村を空っぽにするわけにもいかないし、そんなことになれば 親御さんにも申し訳が立たない」
 アイリがきっぱりと言い放つと、友人たちは渋々といった感じで納得したようだ。
「あ、ちょっと待って。私は一緒には行けないけど、後でウチに寄ってくれる?」
 友人のユメリア・・・いわゆる‘キカイ’マニアというやつだ。
何を企んでいるのか知らないが、時々、妙な実験に付き合わされて辟易させられる。
それから、特殊な趣味の持ち主でもある。
「さて 出発の準備もあるし、私は一旦家に戻るよ。また後で来てくれ」
 そう言って、渚は深雪とともに去っていった。
迎えに行くのをやめようとも思うが、彼女の剣の腕は頼りになる、と思い直す。
とりあえず、約束を果たすために、まずはユメリアの家へ向かっていった・・・


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